2016年 6月1日〜15日
6月1日  ミハイル〔調教ゲーム〕

「朝だ。死者はジル。審議をはじめてくれ」

 フィルが言った。

「ゲームは終わりませんでしたな」

「……」

 コスタが手をぱたぱたしつつ、

「わらわたち四人の中に狼がいるということじゃ」

「もう答えは出ておりますよ。奥様」

「――」

「ニセ占い師と言われて処刑されたアンディがいなくなっても、まだゲームは続いている。つまり彼は真の占い師。彼が最後に言ったのはなんでしたか」

「……なんだっけ」

「奥様。『リアンが黒』と言ったのですよ。それが真実です」

 その前に、とライアンが言った。



6月2日 ミハイル〔調教ゲーム〕

「本物の占い師の託宣さ、聞くがええだ。おらの見ではフィルが最後の人狼だ」

「!」

 コスタの顔が固くなる。

「往生際の悪い」

 フィルがすぐ退けた。

「アンディが真と決まった以上、きみの託宣にはなんの価値もない。きみは狂人だ。ライアン」

 ハハ、とライアンがあざ笑った。

「どの口が言うだよ。追いつめられて、おらの見より前にしゃべくりたくなっただか? おらの見が当たったことは、霊媒のジルが証明しただ! おめえが昨日食い殺したあいつがだ!」

「……」

 コスタの顔がさらに固くなった。


6月3日  ミハイル〔調教ゲーム〕

 ライアンは続けた。

「コスタさ、よく考えれ。最初サンタさを吊れと言った時から、ずっと村人吊りに積極的だったのは誰だ? 村人を着々と殺してきたのは誰だ?おめえとフィルでねえか!」

「!」

 ライアンはうなずきつつ言った。

「おめえがシロだってことはわかってる。だが、あいつは黒だ。おめえはあいつに隠れ蓑にされてただよ」

 コスタの目がにぶくなっていた。
 フィルは鼻息をつき、言った。

「きみはこわい男だな。ライアン。だが、あまりに無理があるぞ」


6月4日 ミハイル〔調教ゲーム〕

 フィルは言った。

「コスタ。よく思い出してくれ。霊媒ジルはキースが狼だったってことを保証している。つまりキースは狼、ここまではいいね?」

「うん」

「つまり残りは狼1人と狂人だ。占い師アンディがリアンを黒だと言ったね」

「――」

「そして、アンディはきみを白だとも言っているんだ。つまり、アンディは」

「本物か」

 コスタの目に生気が戻った時、リアンが言った。

「そうとも言えねえだろ」


6月5日 ミハイル〔調教ゲーム〕

 フィルが微笑した。

「やっと出てきたな。リアン」

「このままじゃくくられちまうからな」

 リアンは言った。

「おめえの話はジルが本物の霊媒であったことを担保として成り立ってる。やつがウソつきだったって可能性は考えねえのか」

 コスタの眉間にまたシワが寄った。

「何を言い出すんだ?」

 リアンはぼそっと言った。

「おれが霊媒だ」

「――!」

「フィル。なんでそれを考えなかった?」


6月6日 ミハイル〔調教ゲーム〕

 待て、とフィルが笑った。

「いろいろとおかしいぞ。まず、これまでの死者の」

「ロビン白、キース白、アンディ黒」

「キースが白?」

「ああそうだ。ジルは狂人だった。やつの言ったことはでたらめだ」

「ジルが狂人なら、ライアンはなんだ」

「狼」

「え」

 リアンは繰り返した。

「ライアンが人狼だ」

 ええ、とコスタが悲鳴をあげた。

「もう頭がパンパンだよ。リアンじゃなくてライアンかよ?!」

 フィルの目が一瞬ハッと大きくなった。

「コスタ、騙されるな。これは策略だ。票を割るな」


6月7日 ミハイル〔調教ゲーム〕

 ライアンはすぐリアンの作戦を理解した。

「ば、ばがこくでね! 何言い出す。おらが占いだ。占いだあよ」

「コスタ!」

 フィルの声も鋭くなっていた。

「狼はリアンだ。いいか、ここでしくじると村は終わる。投票で狼を殺さないと、晩のうちにひとり喰われる。明日の朝には村人と狼が同数になって、狼側の勝利になるんだ。これはその作戦だ。投票先はリアンだぞ!」

 コスタは泣きまねをした。

「わかんねえよお。おまえが狼なら、おれは終わりじゃねえかよ!

 」タイムアップだ。

「評決を取る」


6月8日 ミハイル〔調教ゲーム〕

 ぼくは言った。

「最後だ。目を閉じて投票にしようか」

 四人はすぐ目を閉じた。四人の被告の名をあげ、決をとった。

「目を開けてくれ。――リアンの処刑が決まった」

 フィルがガタっと立った。ぼくは笑って言った。

「おめでとう。人狼は駆逐された。村人の勝利だ」

「コスタ!」

 フィルが目を輝かせた。

「よくやった!」

「おうよ!」

 フィルは握手しようと手をだしたが、コスタは飛びつき、彼を抱きしめた。フィルも笑って受け止めた。
 死んだ連中の間から歓声があがった。


6月9日 コスタ〔犬・未出〕

 あっぶねえ。ライアンに投票するとこだった。直前までその気だった。

 ライアンはうさんくさかったよな。わざとらしい芝居してさ。よくわかんないけど真人間じゃないだろ。いやもうなんかわかんねえし、狼はライアン!

 でも、リアンが正しいと思った時、ちょっと気持ち悪くなったんだよな。ぐわっと喰われるような。

 その時さ、思ったんだ。なんでフィルは必死に票を割るなって言ったんだ? 敵ならそんなこと言うか? 黙ってるよな? わかんないけど、なんか票を割るとまずそうって思ってさ。


6月10日 ロビン〔調教ゲーム〕

 楽しいゲームじゃった。
 フィルは勝ってご満悦じゃ。

「面白かった。2対2になって、サイコロ判定だと思ったのに。リアン、ヤマ師だな」

 リアンはフィルを褒めた。

「おれはおまえに騙されてた。途中まで狂人だと思って、生かしておいたのが運の尽きだ」

 キースは無念そうじゃ。

「狼なのに早々に殺されたニャン。それも味方にぶったぎられたニャン」

「すまね」

 ライアンは詫びた。

「おめは実直そうな男だでつい信じただ」

 アンディが泣く。

「おれもニャンかピヨにすればよかったよー!」


6月11日 フィル〔調教ゲーム〕

 あとでコスタに聞いて、鼻から力が抜けた。
 あいつわかってなかった。

 リアンは「キースは白」と言った。
 アンディとライアンが狼なら、キースは真占い師でなければならない。だが、キースは「コスタは黒」と言ってしまっている。真占い師のはずがない。

 だが、コスタはそれを忘れて信じかけていた。リアンを処刑したのは、ぼくが味方っぽかったからだという。

(……)

 ぼくも正直、霊媒と言われて混乱した。あのタイミングは投票の判断力を奪うためだったのだろう。

 ……まあ、勝ってよかった。


6月12日 フィル〔調教ゲーム〕

 ロビンはもうネット(イントラ)の人狼ゲームに参加しているようだ。

「人数多いから、役職もいっぱいあって複雑」

 彼はぼくにも入るように言った。

「チーム組もうぜ」

「ぼくはネットはいいよ」

「なんで」

「相手が青くなったり赤くなったりするのが見えない」

「……」

「それにきみらが嘘つきに成長する姿を見るのはさびしい」

「わお。フィルの言葉とも思えん」

 本音だ。
 嘘つきゲームは敵を倒す時だけで十分。
 あと冷蔵庫のデザートがなくなった時とかね。

「汝は人狼なりや?」

 ランダムがニっと笑った。


6月13日 イアン〔アクトーレス失墜〕

 レオの帰国が決まった。
 政府との高度な取引があり、彼への起訴が取り下げられたのだ。

 ようやく帰国できると喜んだやつは、とち狂った。

「いい機会だから、いっしょに帰ろう」

 という。
 おれにはいい機会でもなんでもない。まだ契約が残っている。

「違約金なら用意する。いちいち地中海を渡ってくるのは面倒くさい。いっしょに来てくれ」

「その話は最初に」

「夜、ひとりで寝るのはいやなんだ。おれたち夫婦だろ? 神に誓ったろ?」

 やつは次第に興奮して、来なきゃ考えがあるとわめき出した。


6月14日 イアン〔アクトーレス失墜〕

 今までも何度かそんなやりとりはあった。

 いつも言い合いになり、おれは嵐が済むまでじっとしのぎ、やつは女優のようにわめいて、翌日けろりと忘れる。鼻歌うたって、パスタを茹でている。
 だが、何度も繰り返すのだから、結局、忘れてはいないのだろう。

(……)

 実は、おれがここにいる理由はあまりない。ひとのケツが引っぱたきたいわけじゃない。これ以上の地位も興味ない。安全の意味も、レオの地位が安定してきたのでもうあまりない。
 ただ、ぐずぐずしているのだ。


6月15日 アキラ〔ラインハルト〕

 デクリオンオフィスに入ると、わめき声が聞こえた。
 ちょうどレオが出てくるところだった。

 彼は手に飛行機の模型と写真立てを持っていた。おれを見て、

「やあ、坊や。昇進のチャンスだぞ」

 と笑いかけ、出て行った。
イアンは腕を抱え、憮然と突っ立っていた。

「なんだ」

「仔犬の件で」

 おれは書類を渡し、聞いた。

「ここを辞める気なんですか」

「――」

 彼は鼻息をついた。

「やつが――今回は頑固なんだ。離婚かヴィラか選べとさ」


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